2017/03

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BGMはロンリー。


「あそこなら五反田くらいアツいよ」
「そうなんですか!五反田も言うならメッカですからねえ」
「支持されるには理由があるからね。五反田ならではの厳しい条件を勝ち抜いてきた企業努力がちゃんとある」
「でも、どうみても五反田なのに目黒を名乗るビルやマンション多いですよね 」


昼下がりの2階角部屋、居心地のいい陽だまり。アートスペースと銘打つにはあまりにも似つかわしくないくだらない会話が、確かな音を何も持たないインディーズバンドの最高にかっこいい音「と」交じわい混じり合っている。

「と」と名付けられた店は、"夢のどりかむしょっぷ"というふれこみのセレクトショップで、(株)どりーむずかむとぅるー運営のスペースpocke内にショップインショップという形態で開店した。


本当に楽しく過ごした1ヶ月だった。しかしながら厳しい感想をいうと、「と」は、ぼくらの拙さを甘んずる結果になったと思う。

それでは振り返って考えてみる。

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<勇気が足りないセレクトショップ>


「と」は「to」でもあり、ぼくらの向かうべき方角、好意や敵意などの対象、目指すべき到達点、時間の終点、などという意味をも内包している。


「ぜんぜん知らないまま始めること。」(どりかむ宣言)
魅惑的なぼくらのこのスタイルは、いつも数多くの試練と隣り合わせになる。セレクトショップに関して恐ろしいほどアマチュアなぼくらはあまりにも暫定的に 店を始め、そこには商取引の場所としての価値が無視してもいいほど少ないことが予想された。ぼくたちはセレクトに主眼を置くという意識を新プロジェクトの イニシャルモチベーションにした。

ぼくらは最初から間違っていた。

世界はユートピアではない。幾分か修正されているとはいえ、ぼくたちは数々の矛盾・問題点を内包している資本世界の下に生きている。貨幣とアートの関係性 はもちろんのこと、世界はその体制下においてあらゆる要素が有機的に絡み合い物事が進んでいく。世界からみたら末端といっていいぼくらにも、少なからずそ の影響があるはずだ。そこと戦わず、セレクトのみに主眼を置くというぼくらの選択は、ある意味、このような世界からの捌け口としての選択、という側面が あった。そしてぼくらは常にそれによる違和感を抱えながら、約一か月の「と」営業期間を終えることになってしまう。

振り切れていなかった。世界と戦っていなかった。新しい価値観を少しでも探そうとしなかった。

小さな場所とはいえ世界の縮図なのだ。その中で、理想と現実のどちらかの境界を振り切ってしまうくらいの瑞々しいながらも尖った初期衝動を忘れてしまって いた。例えば、「この星は丸くない、本当はただの平面だ。」などと逆説的に言い切ることさえ恐れようとしない類の突き抜けた勇ましさが、ぼくらには足りな かったのである。


それでは、肝心のセレクションについてはどうだったのだろう。

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<セレクション>

ぼくらは「セレクトに主眼を置く」と言った。

そもそもセレクトとはいったい何なのだろうか。

誤解を恐れずに言えば、主に80年代以降のカルチャーの中をリアルタイムに生きてきたぼくらにとって、セレクトとは自己表現の手段のひとつであり、有史以 来溢れ返っている芸術などのデータベースを再構築して自分のアートとして獲得する方法論でもある。オマージュというフランス語を誰もが知るところとなり、 コラージュされたアートが溢れ、カルトはディグされ、DJカルチャーが当たり前となり、ぼくらはサンプリング、リミックスされたものが自己表現する世界の中に暮らしている。

ぼくらはセレクトという行為によって自分たちの思惑や情感を表現する必要があった。セレクトされたものをオーケストレーションして自分たちの世界観を造りださなければいけなかった。

はたしてできていたのだろうか。「と」のセレクトを覗いてみる。そこには古材や古道具をその用途を含めて再構築した作品が陳列され、ありもののボディーに サンプリング、リミックスされたグラフィックの服が並び、自身のスタイルを表現するための種々雑多なものが置かれていた。個々のものはそれなりに秀逸なも のもあった。しかしながら、結論から言うと、セレクションによるぼくらの自己表現は中途半端な結果になってしまったのである。それは、マネジメントの稚拙さからきた失敗だった。

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<マネジメント>

ここでマネジメントの角度から「と」のセレクトを考えてみる。マネジメントに置いて、重要なタスクは2つあり、プロデュースとディレクションだ。プロ デューサーは(株)どりかむが担当し、ディレクターは長年にわたりE崎軍団員として音飯に関わってきた団員のひとりが大抜擢された。

企画立案
コンセプトメイキング
出資
場所の確保
空間デザイン
ディレクターの人選
商品のセレクト
価格設定
キャッシュフローの設定
宣伝
をプロデューサーが担い、

セレクターの人選
セレクターの配置・管理
空間演出
商品の管理
商品の編集
キャッシュフローの管理
をディレクターに託した。

このタスク分担の羅列をざっと見て考察してみる。

1 コンセプトが感覚的で、"セレクトされたもの自体がコンセプトを代弁するという脆さが伴う前提"を、ぼくらがつくってしまった。
2 セレクトに比重を置いた割に、セレクターが自由に商品をセレクトしまうシステムを採用してしまい、ぼくらが表現しようとした世界観の濃度が薄まってしまった。
3 ディレクターの美意識がストレートに反映される"商品のセレクト"という部分を主にプロデューサーが担ってしまった。

問題点がいくつも浮かび上がる。

ディレクターはよくやってくれたと思う。アイテムの演出や編集作業をセンスよくディレクションし、セレクターとのトラストも確立し、多様な素材を使い彼な りの世界観を確立させていた。しかしながら、商品のセレクト=コンセプトという前提において、彼が血肉としてコンセプトを体感できない状況をぼくらがつ くってしまったのだ。セレクターの乱立とも合わせて、不幸なことに、主題もストーリーも曖昧で主役も脇役も区別なく自由に演技するという、あまりにも生熟 れな演劇を彼に監督させてしまったのである。

資本世界をほとんど無視してまであれほどぼくらがこだわろうとしたセレクションという行為は、あまりにも生半可なぼくらの采配によって、無下となってしまったのだ。

ぼくらのルーツやぬくもりや人間味や趣味や嗜好や造形美や歴史や未来や可能性が粋に表現されたもの。本当の意味でぼくらの世界観が濃縮されていたものは、結局、3万円という値付けで売れていった野良着ただ一着だけだったのである。


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<場面転換1 閑話>

男は自分の履歴を、滑らかながら控えめの口調で、されど口賢く語っている。
水商売の女性は聞き手に徹する。

カトリック大学、心理学、フロイト、大学中退、英国デビュー、ミュージシャン、英国留学、経営コンサルタント、ニューヨーク証券取引所。彼の口舌がセレク トした見目好い言葉たち。波乱万丈の半生だったという彼が集めた言葉群が造りだす世界観。ある意味、見事としかいいようがないその世界を背に、彼がさしあたって獲得したい面前の目的。

彼女は目を輝かせている。ただ真意はわからない。輝く瞳が彼女の実の表情なのか、水商売人の習性による装いなのか、それを見分けることができないぼくの器量だけが唯一の慰めだった。


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<場面転換2 閑話休題>

人が出払った後のしんとした2階の部屋。

壁には画家・箕浦建太郎の絵画が飾られている。

彼の内面から滲み出してきたようなその作品は、ぼくらが世界からセレクトしてきた品々を静かに見つめている。

その目線は冷やかにも感じられ、もしかしたら見つめてすらいないのかもしれない。

ぼくらのセレクションを背に、世界を咀嚼して表現されたかのような、色彩をともなう彼の筆痕と対峙したときのぼくの感情。

寂しさと希望が入り混じったぼくの感情。

たぶん答えは、その中にある。

「 こたえは、このなかにある。」

心のなかで複雑に混じり合い、浮かんできた数多くのメッセージのいちばん最後を、意味も分からず言葉として口にだした時。

煮え切らなかった8月の日々のことは急速に過去のものになってゆき、 渦巻いていたあらゆる感情の中で、希望だけが鮮やかに浮かび上がった。



【と】


 


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