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「はずかしながらぁ、もどってまいりましたぁ!」
「ねえねえようさん、これでよかったっけえ?」

「おしい。」
「それを言うなら 『恥ずかしながら帰って参りました』 だよ。」

横井庄一の有名なワンフレーズをひたすら練習するE崎。
出入り禁止になったスナックにまた飲みに行きたくて必死なのだ。

「あずかしながらぁ、かえってもどりましたぁ!」
「あれえ?はずかしながらぁ…なんだったっけえ?」


なんどもなんどもくりかえす。


まだオフィシャルで発表はしていないが、
(株)どりかむは3月末にスナックをオープンし、
なんだかんだでもう1ヶ月は経とうとしている。

E崎はさっそく頻繁に出入りし、
当然のように出入り禁止になった。

他人の情緒がわからない彼の振る舞いが、
どうやらママに嫌われてしまったらしい。

彼は人の気持がなんだかよくわからないのだ。

なにもかも。


青空も、
雨模様も。

ミサイルも、
郷愁も。







僕は21歳のとき、スナックで働いていたことがある。

歌舞伎町の中心部にあったその店は、ホストクラブしか入っていない雑居ビルの最上階にあり、
他人のセックスとセックスの隙間の時間にひっそりと営業してるような店だった。

的屋の愛人のママや売れない役者といった同僚達のかもし出す空気は若かった僕にとって刺激的で、
いかにもその筋の人といった常連さんや毎日のように通ってくるホステス達が歌舞伎町独特の匂いを演出していた。

その雰囲気がこの街の住人や当時の僕にとって居心地のいい場所だった。

深夜手前から朝九時まで働き、
一日四箱のセブンスターを吸い、
芝居や映画の話をし、
流行っていたマルゴー村産の赤ワインを飲み、
ママに肉体関係をせまられ、
最終的に僕はその店を辞めた。

僕は、バンドが忙しくなってきたから辞めさせてくださいとママに嘘をついた。



スナックというカルチャーは独特で、
その土地のその場所でしか味わえない心地いい温度の空気感がある。

理屈では語ることのむずかしい"なんか居心地のいい場所"を提供しようとしてきた僕たちにとって、
そいうった意味でスナックというのは実にうってつけの営業形態なのかもしれない。



「それじゃぁあやまりにいってくるからっ!」

E崎にはめずらしくジャケットを羽織り、
0時を過ぎたころスナックへ向かって行った。

謝るならちゃんとした格好で、と選択した上着なのだろうその古ぼけたジャケットは、
ぜんぜん似合っていないという理由で、
彼にはとてもよく似合っていた。

なんでもネットで済んでしまうこの昨今に足しげく店に通い、
消費以外の理由で自分の居場所を求める彼を見ていると、
いい店の本質とはなんだろう、
何かを心に届ける事の大切さとはなんだろう、
とあらためて考えさせられてしまう。



翌日ママにE崎の様子を聞いてみたが、彼が何を言っていたかはママには意味不明だったらしい。


昨日はどうだったかとE崎に尋ねてみた。


「金八せんせいの格好みたいっていわれたあぁっ!」


大声の返事といっしょに、
満面の笑みがこぼれてきた。


しかしながらE崎はその日にまたスナック出入り禁止続行を言い渡されたという。


【ばか】



 


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